高齢化の進行と介護サービスの重要性の高まりとともに使われるようになった、地域包括ケアシステムという名称。しかし、名前やコンセプトそのものがまだ十分に世間に広まっているとは言えない状況です。このコンセプトそのものの歴史は意外に古く、1980年代まで遡ることができます。発祥地は広島県、現在の尾道市にある「みつぎ総合病院」という公立の病院でした。この病院では医療と行政が連携したうえで寝たきりゼロを目指した取り組みを始め、その名称として「地域包括ケアシステム」が使われたのです。1980年代というとまだ高齢化の問題が深刻化していない状況でしたから、かなり先見の明がある取り組みとして評価できるでしょう。
地域包括ケアシステムの重要性が本格的に議論されるようになったのが、2000年代も後半になってからのことです。介護業界だけでは介護サービスの維持が難しくなっていくことを念頭に入れつつ、医療はもちろん、地域社会全体で介護環境を維持するための取り組みが議論されるようになりました。そして2014年には「医療介護総合確保推進法」という法律によって、地域包括ケアシステムが高齢化社会において実現すべき目標として定められたのです。こうした経緯から、地域包括ケアシステムは横のつながりを重視しつつ地域全体で介護環境を機能させることと、予防介護を重視することを大きな目標としています。高齢者ができるだけ最後まで自宅で生活できるようにするために、健康や社会との接点を保てる環境を地域全体で用意するという、単なる介護環境の充実に留まらない深い意味を持つ取り組みでもあるのです。